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2015.08.02

稲作と同時に太陽光発電 小郡の農家が実験

産経新聞 8月2日(日)7時55分配信
福岡県小郡市の農家が、水田を活用した太陽光発電の実験を始めた。耕作放棄地での太陽光発電は珍しくないが、稲作と同時に実行することで、農家の収入を増やす狙いがある。米価下落や農政改革で、中小規模の農家に不安が広がる中、稲作と売電によるダブル収入という新たな手法が注目される。 (九州総局 津田大資)

青々とした稲が風に揺れる水田の一角に、屋根型のソーラーパネルが並ぶ。稲に太陽光が十分当たるよう1・5メートル間隔で建てられた高さ3メートルの柱に、パネル48枚が設置されている。

太陽光発電を設置したのは、計2・5ヘクタールの水田を所有する小郡市の農家、美山泰彦氏(75)だ。小規模で発電効率のよい設備にするため、世界最小のインバーター販売を手がける「NEPジャパン」(福岡市博多区)の中村武久会長(65)に相談し、2年がかりでこぎ着けた。

太陽光発電は通常、複数枚のパネルごとに直流から交流に変換する大型のインバーターが必要になる。また、1枚で不具合が生じると全体の発電量に影響し、特定も困難なことから発電効率が下がる。

今回はNEP社製の18センチ四方(厚さ2・5センチ)の小型インバーターをパネル(1・7メートル×0・7メートル)1枚ごとに取り付けた。離れた自宅の事務所のパソコンで発電状況をチェックできるシステムを使用しており、不具合があればすぐに修復できる。

この結果、従来製品に比べ10%程度発電量を増やすことが可能になるという。

また、設備の強度にもこだわった。太陽光発電の先進国であるドイツの架台メーカー「MKG」の日本法人(福岡市博多区)に協力を求め、風速65メートルにも耐える製品を使い、強固な土台づくりの指導も受けた。

◆月7~8万円の収入

農家の副収入確保を目的とするだけに、売電収入がどの程度確保できるかが重要になる。

美山氏の設備は実験段階のため、総出力は12キロワットにとどまる。

パネルを4倍にした場合の設定で利益を試算した。固定価格買い取り制度(FIT)は、出力10キロワット以上の場合、1キロワット時あたり36円(平成25年度当時)で、1年間の売り上げは約200万円になる。

所有する水田を利用するため土地代はかからないが、設備の建設費に必要な借入金のローン返済や水田の固定資産税、設備の維持費など経費はかかる。半分は経費となるが、1カ月あたり8万円程度の利益が出る。買い取り価格が27年7月から27円に引き下げられるとはいえ、それでも7万円程度の利益が見込めるという。

今後、パネルによってできる影がコメの育成にどう影響するかなどを調査し、さらに詳しく実用性を確認する。

◆モデルケースに

「年金が5万円程度の人が多い中、コメの収入がわずかでも、売電収入によって月に7~8万円あれば生活はかなり楽になるはず」

美山氏は水田活用の太陽光発電の有効性についてこう語った。

こうした実験に取り組む理由は、高齢化に伴う後継者不足で耕作放棄地の増加や、農政改革が進む中、生活が維持できるか不安を抱いている小規模農家が多いからだ。

政府は成長戦略の一つとして強い農業を目指し、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉を進めるほか、半世紀ぶりにコメの生産調整(減反)の打ち切りなどを決めている。

意欲のある農業法人などに農地の集約促進を図るほか、耕作放棄地の固定資産税を倍増させる方針を固めるなど、制度改革が進む。

こうした中で、高齢で農作業ができず農地を貸しても賃料の相場は低く、利益はほとんど出ない。また、小規模でも農業を続けたい農家も多いが、米価は下がるばかりで、今後続くTPP交渉の結果次第では、さらに下落することが予想される。

先祖代々引き継いできた農地を手放す決断をする農家もあれば、小規模でも何とかして継続したい農家がいるのも現状だ。

農地の目的外利用は制約が多いだけに、美山氏は日照率やトラクターが通過できる幅を確保するなどクリアするために工夫を凝らした。将来の農地活用のモデルケースとなるよう、さらに改良などを続けていくという。



【用語解説】固定価格買い取り制度(FIT)

再生可能エネルギーの導入促進を目的に、平成24年7月に始まった。太陽光や風力などで発電した電力を、大手電力会社に国が定める価格・期間で買い取るよう義務付けている。九州電力管内では急速に増え、受け入れ可能量を超える恐れがあるため、ルールを改定。新規参入者に対し無制限に出力抑制できるようになったが、国内最大級の蓄電池導入などで受け入れ量を増やす取り組みを続けている。

タナダ